解説


解説

 1 本書の特徴

本書は鈴鹿山地を代表する名山から無名の山まで、百三十八山と二百五十を超えるハイキングコースを収録しています。さらに東海自然歩道や、山麓周辺の見どころや散策コースも加えて、これ一冊で鈴鹿歩きに充分な質量の案内書に仕立てたつもりですが、さらに姉妹本の「地図で歩く鈴鹿の山」(中日新聞社刊)を合わせると、山の総数は二百四十を超え、主だった山のほとんどをカバーしました。一コースの地図と文章を見開き頁に配して、山を歩く時も計画を立てる時も、解りやすい構成で、上級者の方は言うまでもなく、初級者や中級者の方々にも利用しやすく、さらにこれから山歩きを始めようとする人や、逆に体力に見合った歩き方にシフトする人など、多様な歩き方を自由に選択できるように、本書を次のような五部構成としました。

 2 鈴鹿五十名山を歩く

御在所岳・藤原岳・霊仙山・鎌ヶ岳など全国的に名の知られた山が、鈴鹿山地にもたくさんあります。そのような鈴鹿の名山をもう少し拡大して五十山を選び、それぞれの山の特徴・アプローチ・代表するコースなどを紹介することで、鈴鹿の山歩き経験を深めようとする人はもとより、これまでに数多く歩いた人の情報整理や、山の会などの企画で、ほかの山城と同様に鈴鹿を取り上げる場合にも役立たせていただけるものと思います。

 3 三角点の山巡り

花を見る・写真を撮る・雄大な展望に感動するなど、山歩きにはさまざまな楽しみ方がありますが、山頂などに埋められた三角点巡り(国土地理院で行う三角測量用)を楽しむ人も少なくありません。しかしこれを本格的に取り組むのなら、山の会などに同行するだけでなく、自らで三角点の山を知り、訪ね歩く必要があります。そこで本書では、鈴鹿山地の三角点一覧表(百五十五座)と、三角点の山二十四山を紹介しました。なお第一部で収録した三角点の山を加えると本書全体で六十五山になります。

 4 三百山ピークハント

鈴鹿山地にはどんなに無名な藪山へ行っても、紫色のテープ紐を立木に固縛しているマニアがいます。山へ登った証明に目印を残す是非ここでは論じませんが、一般にピークハントと呼ばれる楽しみ方で、山をくまなく歩くことはそれ自体は大いに結構なことだと思います。特に鈴鹿山地は、四周を国道や交通機関に囲まれ、車を利用すればアプローチしやすく日帰り山行が容易で、ピークハント向きの山地です。そこで本書は五十名山と三角点巡りに続いて「鈴鹿山地の三百山ピークハント」をテーマにして、三百山一覧表と精選七コースを紹介しました。

 5 東海自然歩道10コース

東京と大阪を結んで、約千七百キロの距離で東海自然歩道が通っていますが、この道が鈴鹿山地の三重県側(一部岐阜県)山麓を約百キロの距離をもって通じています。本書ではこれまでの山歩きとは異質になりますが、高度差も少なく歩きやすく整備されたハイキング道を、鈴鹿山地だけの限定で十コースに分割して紹介しました。なお東海自然歩道だけをテーマにした本も多く出版されていますが、長い自然歩道の効率的な分割や置き車など、山歩きと同じ視点の歩行方法や、山行案内と同じ形式の地図でコース案内をしました。

 6 鈴鹿山麓てくてく旅

これまでは鈴鹿の山歩きを主に紹介してきましたが、本編では遠い昔から営々として人との関わりが続いてきた山麓周辺に眼を転じて、今に残る名所・旧跡・遺構・古道から、新しい行楽や観光までを含めてその概略を紹介しました。ご存じのように鈴鹿山地は、三重県・滋賀県・岐阜県にまたがり、市町村合併後の現時点で十六の行政機関によって管轄されていますが、山地の四方を人里が取り囲んでいるだけに、その見どころは数知れぬほどたくさんあります。このように豊かに拡がる鈴鹿の山麓周辺を紹介することは、巻頭文でも触れた「体力的」な要因で、ハードな山歩きから山麓歩きに趣向を転じる人や、逆に山歩きの機会が無かった人が、手軽な山麓から歩き始め、さらには山歩きへステップアップしていただけるような、そのような期待を込めてこの項を取り上げました。

 7 概念図の見方

本書のコース案内に先だって、鈴鹿山地を全体的にご理解いただくために「鈴鹿山地の全体概念図」と「各部テーマ別概念図」を加えました。全体概念図は、四頁分割で誌面を大きくして、地形図毎に分割した枠内に、本書収録の山の概略位置を記入するとともに、紹介したコースの登山口と分岐点、および道路番号と交通機関駅を記入して、各コース内に記載した「アプローチ」を理解しやすく、そして行動しやすくしました。また「各部テーマ別概念図」は、各部ごとに設けた見開き頁の題名見出し・解説文とともに、各部で取り上げた山(五十名山・三角点・三百山など)の概略位置を記入しています。また第四部は東海自然歩道のコース全体図とアプローチ方法、第五部は鈴鹿山地の新行政範囲を示しました。

 8 山行情報1 問い合わせ情報

特にここ数年は、市町村合併で行政機関の変動が大きい ので、平成十八年五月時点での問い合わせ先情報を掲載しました。状況確認・各種施設の申し込み・バス時間の調査などに利用ください。

 9 山行情報2 交通機関情報

鈴鹿山地周辺の交通機関(駅名・所要時間・営業社名)を概略表示しましたので交通機関でアプローチする場合に利用ください。ただしバスは登山時間に適した便数が少なく、下山時間などで利用しにくい場合がありますので注意してください。

 10 山行情報3 道路距離情報

鈴鹿山地の周辺および山間の道路について、要所間の距離を記入しましたので、各コースのアプローチ明細とともに利用ください。なお鞍掛峠・石榑峠・武平峠を通る国道は冬期(十二月~三月)通行止になりますので注意してください。

 11 その他

 ○ランク付け

各コースの地図上端に、三つの要素についてランク付をしています。ランクとは程度とか度合いのことで、次の三つに分け、さらに山頂までを基準として、往路と復路別にAからDの四ランクで示しています。(地図上段に「登山口山頂下山口」で表示)

難易度...道の解りやすいAから難解なD

安全度...道の安全なAから危険なD

体力度...体力の少ないAからきついD(同じルートの往路や別ルートとの組み合わせる場合の参考)

 〇安全対策

本書のコースは、鈴鹿を代表する山や基本ルートを中心にして、安全で解りやすい登山道を主に紹介していますが、山歩きに絶対はありませんので、常に集中力をもって慎重に歩くことが求められます。

 装備について

山歩きを始める人が最初に考えるのは「どんな装備を買い揃えばよいか」ではないでしょうか。確かにその通りで、都会と山の中ではすべての条件が異なります。文明社会の行き届いた都会に対して、自然に囲まれた山の中で過ごすのですから、例え大勢で歩いていても、自分の身体や時には命を自分で守るために、山歩きに適した装備が必要です。限られた誌面でそれらの詳述はできませんが、本書の対象とする「鈴鹿山地のハイキング」に限定した必要装備について、筆者流儀の概説を記しました。

 1登山靴(軽登山靴・スパイク付き長靴)

岩屑の多い地道と、急な傾斜や崩壊して道幅の細い危険な場所も多いので、足首を保護するハイカットタイプの軽登山靴(トレッキングシューズ)を着用する。布製・革製いずれも良いが底が摺り減って滑りやすい靴は不可。薄い雪道や谷沿い道でスパイク付きの長靴も時に使用。自然歩道などの平地は運動靴も良い。

 2ザック類(ザック・ウエストポーチ)

選ぶ基本は日帰り山行に適した収容量があり、身体に合って疲れない、行動しやすい、

通気性や耐久性がある物で、夏期は25リットル、冬期は30リットルを使い分けている。すぐ出したい小物はウエストポーチ。カメラは専用ポーチを使用。

 3雨具(雨傘)

雨と解っている日は中止するが、平野は晴れでも山で雨が降ることも多いので雨具は必携したい。種類も多いが軽量で防水性と透湿性の高いゴアテックス製が理想的。折り畳み傘を使用することも可能ながら鈴鹿では少数派。

 4服装(ウエア・帽子・手袋・スパッツ)

特に規定はないが、保温・風防・速乾軽量・活動的・機能的な要素が高い化学繊維素材が良い。それに身体を保護する要素が高い物。特に鈴鹿は藪こぎが多く山ヒルも出るので夏でも長袖シャツと長ズボン・ロングスパッツは必要。帽子と手袋も必携。予備にフード付防寒着・靴下・手袋を携行したい。

 5ストック

脚の疲労防止や身体のバランス維持に使い、両手に二本持つ人も多い。ただし固定ロープ足場の悪い所は邪魔になるので注意。ストックを持つ分だけ手は疲労する。市販の伸縮品が良いと思うが、時には現地調達(木の枝)するのも愛嬌。

 6ヘッドランプ(懐中電灯)

日帰り山行で計画的には必要ないが、秋冬は日没が早く、予定外に遅くなることもあるのでヘッドランプは四季必携したい。懐中電灯でも代用できる。ただし乾電池の確認はしておく。

 7 食料品(昼食・飲料・間食・ポット・敷物・調理器具)

昼食を挟んで平均6~7時間の行動に適し品物を用意する。基本的に個人の自由であるが、必要以上に多く持参すると無駄になるし重い。保温用途のポットも軽量なものを選ぶ。ガスコンロを持参して使用する人もいるがその分重量はかさむ。

 8 調査確認用具(地形図・磁石・時計・高度計など)

リーダーと一緒に歩く時と、自力で歩く時では状況が異なるが、いずれの場合でも地形図・ガイド図(コピー)・磁石・時計と筆記用具は持参したい(山を歩く能力も上達する)。磁石は腕付け型とシルバコンパスの両方、時計組込式もある。高度計も専用品と時計組込型あり。その他赤テープを一個持参。

 9その他の用具(カメラ・携帯電話など)カメラは持参すると楽しい。本格的なら一眼レフだが重い。デジタルカメラなら軽量。携帯電話はあれば持参すると時に役立つ。ラジオや双眼鏡も同様。

 10 ロープ

ハイキングコースでは必要箇所は固定ロープや鎖が付いて原則的に必要ないが、危険な箇所を通過したり不安解消のためにロープを使用したい場合がある。特に大勢で歩く時は恐怖感に個人差もあるので代表者は必ず持参したい。個人的に歩く時、特に初めてのルートでは必携。

 11 緊急時用の携行(ツエルト・登山ナイフ)

大勢で歩く時の日帰り山行では必要ないが、個人的に歩く場合(特に新規のルート)などではツエルト・登山ナイフ・ライターを持参している(荒天時の昼食用にも使える)

 12 その他の小物(防虫スプレーなど)山ヒルなど害虫予防にスキンガードなどの防虫剤や虫さされ薬。擦り傷用の傷テープや軟膏薬。手ぬぐい・ハンカチ・ティッシュ・ビニール袋・小銭とスペアキーなどあれば役に立つ。

 13 アイゼンとワカン

鈴鹿の北部と南部で差はあるが、ほとんどの山域で冬期は積雪があってハイキングのレベルでも雪山を楽しめる。そのために6本爪アイゼンは必携(あればワカンも持参)