鎌ヶ岳の登山道は、三重県側の他に滋賀県側にも幾つかのルートがあって、鈴鹿スカイライン沿いに登山口のあるルートは、両県側から大差ない時間でアプローチ出来るので、歩く人もかなり多い様である。本項で取り上げた松尾尾根とニゴリ谷もその様な一つで、登山道が無いので、ルート読みの巧拙がものを言う、山慣れた人向きの変則ルートである。また松山尾根には、一カ所だけ尾根が崩壊した所があって、固定ロープはあるが、雨天や強風時、それに高所恐怖症の人は避けた方が無難の様である。
県境の武平トンネルから西へ、車で十分程走ると道が大きく曲がる所で、稲ヶ谷橋と雨乞岳の登山口が現れる。そこから少し西へ離れた所が登山口で、広い空き地の谷側に「ニゴリ谷経由鎌ヶ岳」の道標があり、ガードレールを跨いで山道へ降りる。少し先の切り開きから河原へ降り、二股谷を渡って雑木林の踏み跡へ入る。崩壊地を抜けて、登りから平坦地に出た所が谷と尾根の分岐で、往路にとる松山尾根は、直進して左へ寄りながら、山腹に付いた道を急登して尾根に出る。尾根上に明瞭な踏み跡はないが、藪もなく支障なく歩ける。それに右手に鹿除けネットが現れ、延々と尾根の中程迄続くので良い目印になる。但しネット沿いに、ガレて尾根上端の崩壊した所が二カ所あり、倒れたネットを跨いで、ガレを避けて安全な部分を歩く。ネットが消え、尾根が東から南へ曲がりながら、急降下して鞍部に降りた所が松山谷へ降る分岐で、その先から山腹の急登を、木の根や枝を掴みながら登って、右から来る尾根に移る。この尾根もガレが多く、山頂下に近づいた所で、冒頭に記した崩壊した尾根の通過があり、やっと歩ける幅の細い上端を、ロープの手摺を掴んで慎重に通り、水量谷の源頭を過ぎると、最後の急登になる。右手の岩ガレに沿って、樹林下の草付きの踏み跡を、登り詰めて山頂の南端に出る。
ニゴリ谷を帰路にとって、山頂から岩道を降って峠手前の分岐に出て、道標に沿って西へ降る。笹と潅木下の踏み跡を降りながら岩の散乱する谷へ近づき、幅の広い谷床の左岸を、道がないのでテープ目印を参考に、足元を選んで降る。岩壁が塞ぐ所から右岸へ渡渉し、谷沿いの河原や、中州状の岩を踏んで降るうちに、左から入り込む幅の広いロクロ谷を渡り、更に渡渉を繰り返しながら、右から来る松山谷を渡り、正面の切り開きから土手を登ると、往路で歩いた尾根道の分岐に出て、左折して来た道を戻り駐車地に戻る。