あとがき


山を歩く時に「地図と磁石」は絶対に欠かせない用具です。それが例え何回も歩いているコースであっても、案内者の後ろについて歩くだけといった場合でも「地図も磁石も必要ない」と断言出来ないのが山歩きです。一般に山歩きに使う地図には「地形図」があります。勿論これは必要です。特定の山域を纏めた「登山地図」があります。これも役立ちます。しかしもっと必要な地図、例えば登山口から目的地へ、目的地から下山へ、一つのコースを図形にして、その中へ歩くために必要な、判断や目安になる情報を示した地図があったら、特に初級者や中級者にとって随分と役立つのではないか、また概念図と文章だけで理解しにくい案内書も、これと併用すれば一段と解り易くなるのではないか、という発想をもって、鈴鹿を歩き始めて三年目に第一作の案内書(私家版)を制作し、六年目の今回「地図で歩く」を題名に入れた本書が誕生しました。

勿論このような作品は、私一人の能力や努力で成し得たものではなく、物心共に大きな影響を受けた先達者や、協力者があって実現したものでした。今私は「座右の書」として、折にふれて開く書物が四つあります。それは、鈴鹿山地を余すところ無く精緻に紹介した「鈴鹿の山と谷」(西尾寿一著)、鈴鹿の雰囲気を詩情豊かに語ってくれる「鈴鹿紀行シリーズ」(辻涼一著)、市販本ではありませんが、中高年から歩き始めたハイカーに、何時も勇気と目標を与えてくれる「月刊誌:山想山歩の集ひ」(加藤規四夫主宰著)、自然観察の鋭さに何時も驚嘆させられる「年刊誌:山行記録集」(山田明男著)、で、これら「心読の書」に巡り会わなかったら、本書は生まれていなかったと思います。

一方、山を歩き取材するうえで、協力下さった方々もまた有難い存在でした。中でも鈴鹿市の山歩き集団「ベルクハイル」で、私のコース設定そのものを山行計画に組み込み、案内者として先導して頂いた小亀英雄氏、毛塚一雄氏、八重嶋静明氏。前出の「山想山歩の集ひ」の梶川軍治氏、山田猛氏。同じく「新ハイキング関西」の山田明男氏の方々には、改めてそのご厚意に感謝申し上げる次第です。

平成十五年八月西内正弘