スカイラインが武平峠から大河原へ抜ける滋賀県側の山域は、雨乞岳・鎌ヶ岳・綿向山と共に、南西の一画を占める山がサクラグチである。鈴鹿の名山と並んで、いかにも無名で不遇な山と言えるが、その山域は広大で、東の能登ヶ峰や野州川ダムを挟んだ政子辺りから見る山容は、高度感のある峰を連ねて堂々と聳えている。植林に覆われた尾根筋には、幾つもの登山路があり、稜線に乗るとガレの上から雄大な展望が拡がり、二次林下の遊歩道の様な道も所々にあって、ハイカーで賑う山と一味違った雰囲気を持っている。サクラグチの稜線は、東の大河原橋から西の鮎河にかけて5キロ近い長さで、両端を通しで歩くと長丁場になるが、ダム堰堤脇から登って深山橋に降るルートをとると、手頃な時間で歩ける。但し下山口から駐車地迄の距離が長いので、深山橋側にも置車して送迎出来れば便利である。
大河原から鈴鹿スカイラインに入り、野州川ダム堰堤の駐車場に車を置いて歩き始める。少し西へ降り、防護壁の切れ目に立てたネットの左から山に入る。山腹に付いた薄い踏み跡を左へ左へと登ると、枝打した明るい植林の平地に出る。左の谷に沿って道を登るうちに、尾根に乗り鹿除けネットが現われる。道は急登になるが、ネット沿いに歩く解り易い踏み跡が続いている。急登をこなして平坦になると、左の尾根との合流点に出た後、右に回り込んで雑木林が植林に変わるとすぐに、しっかりした踏み跡の稜線に着く。左に出た所がP789で、東側が大きくガレて崩壊し、その上に特徴のある草原を見せている能登ヶ峰が間近かに迫っている。ガレ場を過ぎると、道の両側に細い二次林が密生し、平坦で歩き易い遊歩道の様な尾根道となる。やがて道が狭まり、樹木が覆ったトンネルを登ってピークに着き、急降下に変って鞍部に出ると、東方の展望が開く草地で、一息入れる良い場所がある。次のピークに向うと踏み跡が消えてしまうが、ここは両側の密生した雑木を避けて、疎林の歩き易い所を選んで高所へ登る。ピークから尾根道を降り、登り返してサクラグチの山頂に着く。植林の中で展望はないが、三角点の右に出ると、伐採地に植えた桧の若木の上から、南の展望が開いている。その左には横谷山方向へ尾根が延びている。
山頂から北に向う尾根を降って帰路につく。直線の尾根が右に向きを変えると、再びネット沿いとなる。踏み跡が細くなり、潅木や草が覆って藪漕ぎするうちに、尾根が拡がって少し複雑な地形になる。谷へ降らない様に、左から右に回り込むと尾根に乗り、ヤセた岩尾根を急登してP691に着く。狭いピークには雨乞信仰に使われたのか、倒壊した祠と石組が残っている。急降下に変った後も暫く岩尾根が続き、広い尾根道になると又々ネット沿いとなる。ネットの終った先で尾根の突端に出るが、大きな岩壁があって直進出来ない所で、右へ回り込んで山腹へ降り易いので注意し、左から薄い踏み跡を降って岩壁を巻くと、植林の中に明瞭な尾根が見えている。尾根に乗って降りきると深山橋脇の国道に出る。尚逆コースで深山橋側から登る時は、林道脇の電柱に小さな標示が記入され入口の切開きもあるが、急登が長くなるので少しきつそうである。下山口から駐車地迄歩いて戻る時は、50分程必要となる。