湯の山から御在所岳の南麓を抜けて大河原へ到鈴鹿スカイラインは、県境の武平峠から降り一方となり、野州川ダムの先で日野町と土山町の人里へと分岐していくが、まだまだ深い山域の続く野州川ダムの北西には、ダム西方の平子辺りから眺めると、植林に覆われた富士形の『奥草山』とその右手稜線にコブの様に張り出した『政子』が見える。両山共あまり知られず、歩く人も少ないが、ダム脇から登って1時間半で山頂に着き、各々に綿向山と雨乞岳の雄大な展望が拡がる展望台を持ち、山頂付近の二次林も鈴鹿有数の好雰囲気を持っている。初心者でも楽に歩けて楽しい山、そんな隠れた秀峰の一つである。
大河原の鈴鹿スカイライン入口にある『かもしか荘』から少し入ると、左手に野州川ダムの大堰堤が現われる。道脇には幾つかの駐車地があり、そこに車を置いて歩き始める(三重県側からの武平峠越えは冬期通行止に注意)堰堤上の通路を渡って対岸に出た後、左折してすぐに山腹を急登する踏み跡になる。植林の中をジグザグしながら登るうちに、はっきりした尾根に出て、その後は尾根筋を辿ってテープと踏み跡の続く道となる。やがて木立の間から西の展望が開け、植林が雑木林に変り、再び鹿除けネットと共に植林に戻ったりするうちにピークに着き、平坦になった二次林の茂る尾根を緩く登って政子の山頂に着く。大人程がやっと立てる狭い山頂は、あまり展望も優れないが、少し南東へ歩くとゆっくり寛げる場所があり、更にその先の尾根の突端に出ると、急に視界が開けて、雨乞岳から鎌ヶ岳、そしてサクラグチが大きく聳え、その下にはダム湖が青く光っている。いつ迄も見飽きない雄大な景観である。
山頂迄戻り尾根伝いで奥草山へ向う。距離も高度差もあまり無いので、樹林の中を緩く登るうちに尾根が拡がってきて、雰囲気の良い二次林と、カヤトの茂る草原になると奥草山の山頂となる。コバの様に明るい二次林に囲まれ、休息に快適な山頂も展望は優れないが、少し西へ歩いて草を掻分けて右手の突端に出ると、目の前に綿向山が巨体を横たえ、左へ水無山と湖東平野が続いている。政子の展望と合わせると、四周に近い鈴鹿中西部の景観が楽しめるコースである。
帰路は来た道を駐車場へ戻るのが解り易いが、奥草山の西方に延びている奥草山林道へ降ってみる。展望のきく所からそのまま西へテープを目印に踏み跡を降ると、植林の中に入って踏み跡が消えるが、薄い踏み跡が右手に回り込む様に付いている。すぐに西へ向きを変え、良く揃った植林の間を直降するうちに、右手に白い箱と、そして黒いケーブルの敷設が現われる。この施設は地滑り防止の観測や水抜きらしいが、ケーブル沿いに降るうちに、地滑り跡らしい地表の段差もある。降るに連れて踏み跡が明瞭な杣道となり、程なく小屋の立つ脇から林道へ出る。小屋の傍に『地滑防止区域』等の標識が立つ林道から、植林沿いの林道を20分程歩いて国道へ出る。尚国道から登山口の駐車場迄歩くと、1時間以上を要するので、こちら側にも車を配置する必要があり、車が1台だけの時は山頂から来た道を戻るのが無難である。(逆コースで登る時は、小屋の前に木立の切開きがあり、黄色いテープを目印にする)