鈴鹿山脈の御在所岳から、西に向って頑丈な梁を渡す様に、雨乞岳から綿向山に続く長大な尾根が走っている。左右に竜王山と水無山を従えた綿向山は、湖東平野では北の霊仙山と共に際立った存在で、古くから竜王山と共に、神仏両面から里人との繋りが深い山岳宗教の山であった。それは現在においても、山頂の大神社や中腹の行者堂への信仰の篤さに見られ、又青少年の情操の場として山との結び付きが深く、地元の日野町では、標高に因んで11月10日を『綿向山の日』とする程に入れ込んでいる。綿向山の登山道も数多く拓かれているが、基本コースは水木野登山口から登る『表参道』で、よく整備された道が山頂迄続いている。変化を持たせて往路に表参道を歩き、帰路は竜王尾根を降って、竜王山から林道へ出る周回も人気のあるコースである。
国道307号の日野町から、鈴鹿スカイライン方向へ折れ、バス停のある北畑から大きな案内板を見て山手に向う。三重県側からでも、スカイラインを降った『かもしか荘』迄来ると、道を逆に走ってほぼ同じ距離である。国道から3キロ弱の分岐を右にとり、すぐ又の分岐を右に曲った付近の空地に駐車して歩き始める。『御幸橋』を渡って農道を左折し、道標に沿って植林に入った後北畑林道に出る。左折して林道の終点になった所が登山口で、脇には駐車場もあり『表参道登山口』の標識もある。山道へ入り丸太の橋を渡ると植林下となる。ジグザグを付けて傾斜を緩め、落葉で柔らかい良い道が『鈴鹿モルゲンロートクラブ』と名の付いた1合目毎の道標と共に続いている。2合目で鉄塔の下から日野の町並を眺め、3合目で林道を少し歩き、5合目で奥の平からの道と合流すると、山腹を切開いた直線の道となり、程なく7合目の『行者コバ』に着く。良く手入れされた行者堂の空地で、南側に拡がるブナの原生林を眺めながら一息入れる。行者コバから先へ進むと笹が茂って山頂近い雰囲気になってくる。8合目で水無山の分岐を過ぎ、『金明水』の水場から笹道となるが、踏み跡が切開かれて藪漕ぎもなく楽に歩き、最後にきつい階段を登りきると鳥居の待受ける山頂に出る。山頂は小広い空地があるが、神社の祠・大きなケルン(青年の塔)展望案内板等の人工物が立並んでいる。展望は東方が大きく開け、巨大な雨乞岳を中に鈴鹿の山並が連なり、西方の湖東平野も木立からかい間見える。
帰路は北に続く踏み跡から竜王尾根に向う。低い潅木を抜けると、深く切れ落ちた笹原の山肌から、雨乞岳に向う尾根が立上がって、見事な景観を見せている。祝岳方向の分岐を分けて左折すると、笹と潅木の中を急降下の道となる。木の枝や根を掴みながら慎重に降りきってようやく落着いた平坦な道となる。シャクナゲの群生を抜けて奥の平への分岐を過ぎると、登りに転じて岩峰のピークに着く。木立がなく山峡が間近に迫る景観を見せているが、足場が悪いので転落しない様に注意する。痩せた岩尾根を越えて左へ回り込むうちに二つの鉄塔下に出る。共に切開きで良い展望を見せている。カヤトの茂る尾根から樹林の中を緩く登ると竜王山の山頂となる。北に少し展望のある山頂から、二次林の山腹を抜け、植林下に入ると程なく、林道に出て20分程で駐車地に着く。