解説

鈴鹿の山
 
鈴鹿山地・鈴鹿山系・鈴鹿山脈等と呼ばれ鈴鹿の山は、東海と近畿を跨いで、関ケ原町から亀山市にかけて南北約55キロ、四日市市から八日市市にかけて東西約20キロの範囲に拡がる山域です。更に解り易く言えば、南北の名神高速道と名阪自動車道を、東西の国道306号と307号で結び囲んだ範囲の山々、と言うことも出来ます。
処で鈴鹿山地の特徴は、標高千二百米台が上限で、際立って高い山も峻険な山もなく、四周を交通機関や国道が取り巻く好条件と相まって、東海近畿を主として、近隣の多くの府県から、容易に日帰り山行が出来ること、又鈴鹿山地の占める位置が、本州中央部の、南北に最も狭隘な所にあるため、日本海側と太平洋側の地勢や気象が混在して、多種多様な四季の織り成す自然の変化を、提供してくれると言うことです。更に加えるなら、鈴鹿山地が古都の京都や奈良に近いせいでしょうか、産業・交易・信仰・生活等で、古くから人間が暮し関わってきた歴史が息づいていることです。この様な特徴が渾然となって、岩稜・雪渓・氷壁等と言う登山のイメージとかけ離れた『自然と見所と景観を楽しむ山旅』を、健康な心身がある限り、生涯に渡って楽しむ事の出来るのが、鈴鹿の山の最大の特徴と言えるのかも知れません。

2,ハイキングコースと鈴鹿の登山道
本書では、鈴鹿山地の全域から、県境稜線の山や、人気の高い山に偏ることなく、ハイキングの対象となる百コースを紹介しましたが、この中には往復でルートを変えたものが多く、実質的には百七十近いコース数になります。ただこれだけ数多くなると、安定した登山道ばかりではありません。例えば東海自然歩道の様に、道幅は広く、傾斜部には階段を設け、危険な所は手摺やロープで防護され分岐には必ず道標がある。と言った誰でも気楽に歩ける道はごく僅かで、大部分の道は、ヤセた岩尾根道・崖沿いの山腹道・薮に隠れた道・谷中の転石を渡る道・複雑な枝道や巻道・道が消えて茫漠とした林の中、等と言った迷いそうな道ばかりです。従って初心者や中級者の方は、案内者を頼って歩くしか方法がなさそうですが、しっかりした手掛かりと少しの事で挫折しない、勇気と挑戦心があれば、いつか必ず鈴鹿の山野を自由自在に歩ける様になります。本書がその為の手掛かりとなれば、これに過ぎる喜びはありません。

3、三本書の特徴と内容
案内書(ガイドブック)とは、一口に言えば『情報の提供書』です。従って本書も、鈴鹿の山歩きを対象とした情報書、と言う事になりますが、同じ山歩きの情報書でも、限られた紙面の中で、納める情報の範囲や量は、書く人の考え方や、対象者のレベルによって随分と違ってきます。本書の場合は、山歩きの経験豊富な上級者向きと言うよりも、これから山歩きを始めようとか、幾度か人に連れられて歩いた程度と言う、初級者や中級者にも十分利用頂ける情報書を目標に、私自身の経験も踏まえて、どの様な特徴と内容を持っ案内書とするかに腐心しました。そしてそ結論として、紹介するコースが多い分だけ一コースでの情報量が制限されるので、花とか展望とか見所は二の次にして『迷わず間違えずに歩ける情報』を最優先とし、それを最も理解しやすい形態として地図で現わし、その周辺に、文章や写真や一般情報を配置する内容としました。花や展望や見所は、しっかりとコースを歩けさえすれば、各々の人が自由に、自分の得意とする分野で、知識と経験を深めて行けば良いのですから。

4, 地図(読む情報から見る情報へ)
理解しやすい情報と言う意味では、読む事よりも見て理解する方が、豊富な量を解り易く正確に伝えられると思います。そこで本書では、一部の小コースを除いて、見開き二頁に一コースをまとめ、地図を主体にしたコンパクトな形態にしました。一例として最初の『拘留孫岳』の地図を開いて見て下さい。歩き始めの登山口に対して、文章なら『国道を立田小学校迄アプローチし、学校の裏から杉林の山道に入って最初の交差点を左折する』と言う程度の説明が限度ですが、地図なら登山口が、学校のどの位置からどの方角に向っていて、最初の交差点は登山口から百米以内にあって、その間には神社へ入る参道が左手にある。と言った内容が一目で解ります。同じ様に、道の状態・分岐の取り方・沢を渡る回数・山腹から尾根に出る場所等の情報が、目で追うだけで理解出来ます。ただその為には、地図自体を正確に作る必要があります。そこでコースを歩きながら、要所要所で方位時間・地形・目標物等を確かめて記録-コースの範囲に見合った縮尺度で作成しました。従って地図の磁北図と縮尺度を合わせれば、地形図上にコース破線を転記出来ます。ただ幾ら正確と言っても、実際の百米を地図では十ミリ程度に圧縮するのですから、記入出来る限度もあります。幸いに大部分の登山道(踏み跡)は、分断すること無く続いていますので、登山道を辿りながら、地図に記した情報を参考にして歩く、と言う本書の利用法について御理解頂きたいと思います。

5, 文章と写真
一コース見開き二頁のうち、右側一頁は文章と写真一枚に設定しました。文章については、本書が幾ら山歩きの案内書と言っても、それだけでは味気ないし、山への興味も意欲も引き出せません。そこで最初の十数行は、紹介する山とコースの特徴や見所や『良さ』について触れ、その後に地図で記した短い説明を補完したり強調する文章を入れました。従って山とコースの概況だけなら最初の十数行を読み、山行計画の時だけ全文を読む方法でも構いません。
写真については、紙面に余裕さえあれば、二枚でも三枚でも入れたいのですが、写真が増えればそれだけ文章が減る、と言うことでコース毎に山容を主とした一枚に限定しました。尚鈴鹿山地の雰囲気を伝える意味で、巻頭のカラー口絵写真は、鈴鹿の名山・四季・見所・展望・花等に分類して紹介しましたので、参考にして頂ければと思います。

6、目次・概念図・索引
目次と概念図と索引は、本書のコース全体を知るための共通した項目ですが、目次は、第一部県境稜線・三重県山域の山と、第二部岐阜県・滋賀県山域の山の二つに分け、北から南の順で並べました。尚コース数を比較すると、第一部の方が多く見えますが、県境稜線には岐阜県や滋賀県側から入山するコースが多く、実質的には一部と二部は同数です。概念図については、鈴鹿山地全体の中で、紹介する山と登山口(コース毎)の位置の概略を示し、目次と同じコース番号を付して、山行計画に役立つ様に作成しました。
索引は、本書で登場する山や地名や見所や名所等を、名前から検索する為に作成したものです。但し読み方(フリガナ)については山仲間からの口コミが主ですので、間違っていましたら御教示頂ければ幸いです。

7, 鈴鹿山地へのアプローチ
交通機関()や車(駐車地)から、登山口迄の車道や林道歩きを、一般に『アプローチ』と言いますが、本書ではアプローチも山道歩きも、同じ歩行時間としてコースタイムに含めています。つまり本書のコースは殆どが、総時間で五時間から七時間程度の日帰り山行であり、その中でのアプローチ時間は、車で出来る限り登山口に近づいた駐車地から想定しています。勿論汽車やバスを利用しての山行も可能ですが、汽車や電車の駅から歩けるのは、西藤原・湯の山温泉・関・油日・柏原等、ごく限られた山とコースでしかありません。又バスもかなりの便が鈴鹿山中へ入り込んでいますが、それも地元の生活圏が中心で便も少なく、登山者向きとはいえません。駅からタクシーの利用も出来ますが、これも費用や連絡等で問題があります。特に滋賀県側は鈴鹿山地の奥行が深いので、紹介するコースを全部歩く為には、車の利用が必須条件』ともなり、その為の参考として、道路の主要地点や最寄りの駅から、駐車地迄の距離表を巻末に加えました。

8, 一般情報
限られた紙面にコース毎の『歩く情報』を最大限に入れる為に、次の様な関連情報は、巻末に一括して編集しましたので、山行計画等にご利用下さい。
 1所要時間
  コース毎の地図欄へ要点別に記載した時間から、歩行時間と総時間だけを抜き出して記載しました。尚この時間は、歩く人数・時期天候・目的等で変りますので一つの目安とし、実際に歩いた時の時間を記録し、自分なりの『標準時間』を設定して見るのも、山歩きの一つの上達法だと思います。
 2ランク付け
紹介した百コースは、色々な面で程度の差が有りますので、次の四項目について、易しいコースから難しいコースを、AからD迄の四段階にランク付けしました。山歩きの経験度に応じて、AからD(特に難易度)へと移って行く様な、山行計画をお勧めします。○難易度・分岐や道標や道の明瞭度等、間違い易く迷い易い度合いを、易しいAから難しいD迄に区分しました。
○安全度・・岩尾根道・沢中の転石歩き・崖淵の道等、危険な道の状態を、安全なAから危険なD迄に区分。
○体力度・・歩く時間の長短の他に、急登や急降下、道の善し悪し等から、楽なAからきついD迄に区分。
○展望度・・山歩きの醍醐味それは山頂や登山道からの展望・景観です。最高のAから良くないD迄を区分。
 3調査山行日
本書作成の調査山行日を記しましたので、山行計画等の参考に御利用下さい。これによれば、平成九年六月から平成十二年五月の丸三年間で調査した事が解りますが、登山道は日が経つと、明瞭になったり不明瞭になったり消えたり崩壊したりする事が有ります。
ガイドに記載の無い状況に遭遇した時、自分の判断と行動で、最も安全な歩き方をとるのが、山歩きに求められる条件とも言えます。
 4地形図と問合せ先
コース毎に必要な地形図[二万五千分図]の名称と、問合せ先の行政機関を記しました。
 5アドバイス
コース毎の見所や留意点、又本文で書き漏した要点等について、一口アドバイス風に記述しました。


9, 初級者(初心者)の方へ
本書は山歩きの経験が無い初級者の方にも利用出来る様に作成した、と巻頭で述べましたが、百コースのどれから始めても同じ、と言う事ではありません。当然の事ですが、始めての山歩きは初級者でも、五十・百と山行を重ねれば、山に慣れ判断力も身に付き、中級者・上級者へと上達します。従って上達しながらコースを消化していくのが、本書の利用法とも言えます。ただ本書は山歩きの情報本位ですので、装備とか歩き方とかマナーと言った基本的な事は、経験者に学んだり入門書等で学習される事をお勧めします。又地形図とコンパスは常に携帯し、現在地の確かめ等により、読図力やルート読みの能力を育てながら、山行して頂ければと思います。