霊仙山の南から、御池岳を迂回して多賀に向う国道306号の間は、急峻な山地がなく穏やかな高原状の台地が続いている。そこは人の住みやすい山域だったらしく、古くから近江と伊勢や美濃を結ぶ街道が発達し、杉・保月・五僧といった山合深くに村落が栄えた。しかしそれも近代化や交通の発達と共に衰退し、廃村化が進んでいった。そんな風情を今も残す保月の周辺には、鍋尻山・小鍋尻山・地蔵山の3山があり、保月迄車でアプローチすれば、一度に歩く事が可能である。
国道306号の鞍掛トンネル(県境)から、滋賀県側へ6・4キロの所に、権現谷林道の入口がある。そこを見落さずに林道を北に折れて、10分程走ると保月へ向うT字路に出る。道脇には大墓石と、河内風穴(直進)と五僧・島津越(山道へ右折)の分岐を示す道標が立っている。左折して橋を渡り、舗装路を蛇行しながら暫く走ると、居住中の家や、廃屋の混在した保月の集落に着く。西のはずれ迄行くと神社があり、脇の空地に駐車して歩き始める。
右へ曲るとすぐに、道脇に掛けた小さな標識を見て右手の山道へ入る。登山口の傍で良い目印だった大木は、3本とも伐採されて切株だけになっている。緩い登りが続く植林下の道を歩くうちに、カルスト台地特有の、白く大きな石灰岩が目につく様になる。やがて道は植林を抜けて雑木林の中となる。夏草とで歩きにくいが、正面には鍋尻山の山頂部が顔を出し、振返ると南の展望も開けてくる。少しの我慢で急登道を越えて岩場の様な山頂部の一画に出ると、南側に大展望が開けて、烏帽子岳から御池岳そして高室山周辺迄北鈴鹿の山並が雄大な景観を見せている。岩場から先は平坦になるが、背の高いカヤトの原が視野を塞ぎ、踏み跡を外すと迷いやすい枝道も多いので、踏み跡を慎重に辿るうちに三角点に着く。山頂は北西の展望が開くが、降る様にして少し北へ歩くと、霊仙山が真近に見える場所がある。帰路は来た道を戻るが、山頂からカヤトの茂る踏み跡を注意して展望の良い岩場迄来れば、後は1本道で保月の登山口へ戻ることが出来る。
登山口から車道を右折して暫く行くと、杉の大木が聳え、古木に守られる様に御堂の建つ地蔵峠に着く。乳地蔵と呼ばれ、婦人に信仰の篤い地蔵堂の傍に、小鍋尻山の登山口がある。但し明瞭な踏み跡はないので、植林下の山腹を北西寄りに高所へ向い、所々に付いたテープを追いながら15分程緩く登ると、石灰岩の散在する山頂に着く。木立で展望のない山頂から、来た道を地蔵峠迄戻り、地蔵堂の右脇から方向を変えて地蔵山へ向う。こちらも植林下の踏み跡のない山腹を、南東方向の高所へ向って植林の中を登ると、程なく歩きやすい尾根道に出る。尾根を登り詰めて平坦地に出ると、薮の中を少し東へ歩いて山頂となる。ここも二次林の中で良い展望は得られないが、木立の間から北と南に、鍋尻山と高室山が垣間見える。帰路は往路を戻らずに、保月へ直接降る道をとる。北東方向に山腹を降ると、すぐにしっかりした尾根道となり、テープも沢山ついている。やがて保月の集落が右下に見えてきて、『脇ヶ畑小学校跡』の石柱が建つ近くの道に出る。駐車地と目と鼻の先である。