はじめに |
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千年紀が大台を越え、二十一世紀が目前に近づいて参りました。バブル経済が去り、堅実な消費生活が求められる昨今、新世紀においても、趣味或は余暇の過ごし方として、健康的で経済的な山歩きは、中高年者を主として、益々多様化し、活性化していくものと思います。一般に『山のハイキング(山歩き)』という行動は、従来から特定の登山グループに参加することが中心でした。しかしそこでは、経験豊富なリーダーの下で、安心と安全が保証され、大勢の仲間と楽しく歩きながら、経験と技術が高められる、といった利点のある半面で、コースと日程が自分で設定出来ない。天候に影響されやすい。長距離の健脚向きが多い。参加者が多い時は騒然となり時間が長引く。マイペースに休んだり観察して歩けない。といった問題も生じます。そこでこの様な画一的で団体行動的な山歩きに対して、より自由に、自分の趣向に合わせた多様性のある山歩き、例えば山の花をじっくりと鑑賞したい。新緑や紅葉等自然の季節感に浸りたい。動植物の自然観察をしたい。雄大な展望や見所をじっくりと眺めたい。山や渓谷の写真を撮りたい等々を、気の合う仲間だけで、自分本位に歩ける形態があっても良い。と私は思います。 しかしそうなると、今度は山歩きを、自分の能力や判断力だけで歩かねばなりません。その時に頼りになるのが『山歩きの情報』即ち山の案内書(ガイドブック)ですが、書店に行くと、山歩きのベテランや、錚々たる登山家の著した案内書が数多く並んでいます。初心者の頃の私も、幾度となく案内書を頼りに山を歩きましたが、一言にいって、初心者が市販の案内書だけで歩くのは大変です。登山道が整備され、要所には道標が完備するハイキングコースは別にして、踏み跡は所々で消え、分岐に道標もなく、登山口さえ苦労して探すというコースでは、案内書の文章だけで歩くのは至難の技です。そこで私は、私自身がベテランでも登山家でもない一人のハイカーとして、案内書を頼って歩く人と同じ目線に立って、山歩きに役立つ案内書作りに挑戦しました。そして案内書の生命を『正確さと精密さと解りやすさ』の三点に置き、見開き2頁に一つのコース地図と文章で簡潔にまとめ、特に地図で要点を示し、文章はコースのイメージ作りと地図の補足、という『見て理解する』要素を高めた内容としました。 処で一概に山歩きと言っても、人様々な取り組み方があります。例えば日本百名山の完登を目指す人、三角点の山だけに執念を燃やす人、日本アルプスに憧れる人、或は一つの山だけを繰り返し登る人等々ですが、全国の山を対象に歩くことは容易には出来ません。そこで日常生活に密着した山歩きを行なう為には、自宅から気軽に日帰り出来るフィールド(山域)を持つことが必要です。その様な意味で、本書で取り上げた『鈴鹿の山』は、東海と近畿に跨がり、四周を交通機関や一般国道や高速道路が巡る好条件の、いわば都会の中に存在する大自然、といった趣のある山域です。とはいえ自然は、時には厳しい一面を覗かせます。「この案内書があれば誰でも迷わず歩ける』と言う程鈴鹿の山は甘くありません。初級者だけで歩く時は、まず難易度・危険度共にAランクから始めて、山歩きの慣れと経験を積み、同時に国土地理院の地形図(2万5千分図)と磁石を必携して、尾根や谷の見分け方・道の確かめ方や探し方・方向の定め方等を身に付けて下さい。この本を完登する頃には、きっと山慣れたハイカーへと成長される筈です。 平成十二年八月 西内正弘
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